森脇啓好
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駅を出ると、広場をはさんでやや放射状に4本のみちが続いている。
一番左のみちを歩いて行くと、線路との間は一棟二戸長屋の鉄道官舎が
建ち並らんでいる。みちの角には、左手に陶器の徳利と帽子を被ったタ
ヌキの置物がある蕎麦屋が懐かしい。少し歩くとみちはTの字に分かれ、
右角に「おやき」の看板と、小さな窓越しに50才位のおばさんがおや
きを焼いているのが見える。そのみちを右に折れ、さらに歩いて行くと
左手にハイヤー会社、隣に旅館が、その向側には小さな医院の古ぼけた
建物、その並びに民家が、タ食の話しでもしているのだろうか、そして
食堂が続いていた----------------------------------------。
あれほど並んで建っていた鉄道の官舎が、今は跡形もなく、自転車置
場と公共駐車場へと変わっていた。今でもまだ角の蕎麦屋、ハイヤー会
社、旅館、そして朽ちてもう住み手を失った食堂がそのまま残っている。
キャバレー「メルシー」の看板が、子供の心に残っていたとは考えら
れないのだが、それでいて何故か無性に懐かしさを感じてしまうのが不
思議だ。
仮想の過去と現在。記憶と現実との狭間で揺れ動く懐かしさにも似た
心境。
もう40年以上も前の遠い記憶の街。
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